太陽がお前の心臓を撃ち抜く

仕事なんてクソ食らえ、などと心の中で毒づくと同時に堂島さんに謝る。堂島さんには悪いけど今の気分で仕事なんて馬鹿らしくてしたくない。 でも、最近堂島さんとこのあの子に会うんだよな、今日も会ったらチクられるのかな、そういう事しないイメージだけど。まあチクられてもあんまり気にしないけど、でも叱られるのは嫌だな。拳骨はもっとやだけど。
外をぼんやりと見ながら陽気なジュネスの音楽が耳を通り抜けてそれに合わせて心の中で口ずさむ。エヴリデイヤングライフジュネス、エヴリデイ世の中はグズだらけ。
しょうもない替え歌を頭の中で練っていると、不意に服を引っ張られて、いやな予感がしながらもちら、と下を見下ろすと女の子がスーツの裾を掴んでいた、涙目で、勘弁してくれよ。

「おにいちゃん、ママ知らない?」

しらねーよ、と思いながら女の子の目線までしゃがむと涙目でこちらを不安そうに見つめてくる。 そんな瞳をみると嗜虐心をそそられて少しだけ心が躍った。自分の見境のなさに笑える、けど女の子は美少女の類に入りそうなくらい可愛いから仕方ない。
大好きなママに着せてもらったのか真っ白なワンピースは女の子によく似合っている。汚したくなるほどきれいだ。 ああ、思考がどんどん危険人物になっていく、早く母親を見つけよう。めんどくさいけど、仕方ない。 僕はにっこりと笑って女の子の瞳を覗き込んで言った。

「最後にママを見たのはどこかな?」

女の子はいまだに涙目だが安心したのか小さい頭で考えてたしかめるようにつぶやく。

「えっと、えっとね」
「大丈夫、落ち着いて思い出してごらん」
「う、ん・・・ごはん食べてて、まーくんのお母さんが来て、お母さんそっち行って、」
「・・・えらいえらい、よく思い出したね」

大体の居場所は予想がついた。母親を思い出して泣き出しそうになった女の子の頭をぽんぽんと叩いて女の子に手を差し出すと、 女の子は褒めてもらったのがそんなに嬉しかったのかさっきの涙目が嘘のように、にこにこしながら差し出された手を掴んだ。
子供特有のやわらかな手のぬくもりが自分の手のひらに広がってなんだか違和感を覚えた。

「おにいちゃんの手、つめたくて気持ちいいね」


フードコートに向かうと困惑した母親がうろうろしていたのですぐに見つかった。
女の子はすっかり安心していたのか母親に会っても泣いたりもせずありがとうと眩しい笑顔をほころばせて僕にお礼を言った。なんだかくすぐったい。 逆に母親の方がてんぱっていて何度も何度もお礼を言われたがフードコードは暑く、あまり長居したくなかったので適当に返事をしてすぐにジュネスのエントランスへ戻ると陽気な音楽とともにクーラーの冷気が汗をかき消した。
ほっと一息をつきながらクーラーの冷気が女の子のぬくもりまで奪いそうで思わずポケットに手を突っ込んだ自分が気持ち悪い。
母親の所じゃなくてテレビに落としちゃえばよかったかな、と後悔が湧く。
でもあそこに入れたってオレのものになるわけじゃないしなーとつまらないことを考えながら窓の外を見る。 昼の強い太陽がまぶしくて目を閉じると少女の真っ白なワンピースが脳裏に鮮やかに浮かんで、それがあまりにも無垢で、輝いていたから自分が大嫌いなガキに戻ったみたいに 胸がどきどきして胸糞悪くなった。

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