JE REVIENS

私は愛されてきました。里のみんなは孤児だった私を慈しみ、厳しさで愛し、優しさで包みました。それに気づいたのはガデウスとネイの子どもを抱いたときでした。私は自分を包むすべてを、今度はこの子に与えられることに、心地よい寂しさを感じていました。
そして同時に気づいてしまったのです。
私が与えられていた愛の、本当の意味に。

レナ様が与えて下さった黒い剣には、ギグという三体の世界を喰らう者を統べて破壊の限りを尽くしたギグが封印されていました。レナ様は言います。私たちはあなたを待っていたと、ギグと融合し世界を喰らう者を倒してくれる者を、お願いできますか、と。

私はレナ様を殺しました。私が里のみんなから与えられていた愛情は、愛情ではあったけれど愛情ではなかったのです。レナ様だけがそれを知っていて、私は愛され続けていました。私は、自分がからっぽだと思いました。私に空いた空洞は、そう、ギグ、お前のためにあいていた。私の物ではなかった。
ギグは破壊したがった。私も破壊したかった。私を愛した里の者をひとり、またひとりと殺していくうちに、私は私を包んでいた愛がはがれるのを感じ、はがれるごとに私がいなくなっていく感覚を覚え、ギグの笑い声が反響するがらんどうでしかないと思い、私の中で反響する残滓さえ私のものではないのだと感じました。

ガデウスは妻子を守るように地に倒れました。殺してやる、最後に残ったダネットが私を睨みつけます。ダネットの刃が私の頬をかすり、血が流れ、ギグが私に野次を飛ばす、私は、ダネットの瞳に私を信じたい気持ちがあることを知ったので、ダネット、と優しく呼びました。ダネットの殺意が霧散して、おまえ、と呼びました。

ダネット、私はふいに失った記憶を取り戻す、あなたが羨ましくて仕方なかった

ダネットの腹からぼたぼたと落ちる血が、剣から滑って、耳元で囁きました。血を吐き続けるダネットを見下ろして、私は呼吸します。私の肺に、みんなの血の匂いが溢れます。私は満たされた気持ちになりました。ギグは笑いっぱなしです。私もつられて笑います。私は自分を満たすこれが、破壊衝動でも、悲しみでも、愛でも、私自身でも、なんでもいいと思いました。

ずっと塞がれていた里の外に出ると、私を満たしていたものは消えてしまいましたが、私は歩みます。私を閉じるものがもうないように、壊していきます。

果てはきっと、どこにもありません。


20100201

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