世界はどろりと溶けた

堂島さんを病室に運んで、暴れる堂島さんを見ていられなくなってナースに丸投げして病室から飛び出した。
生田目がやったこととはいえ、あいつをそそのかしたのは自分だから少しだけ罪悪感が湧く。
菜々子ちゃんが誘拐されたと聞いて面白くなったっていうのとあいつなにやってんだという気持ちだった。
隠せっつったけどそこまでしてどうすんだよ、と心の中で罵ったことを思い出して思わず笑ってしまう。
夜の病院の廊下をひたひたと歩きながら、そういえばあの子たちに生田目の病室を教えたんだった。
そろそろ注意しないとオレが怒られるので、呼びに行くことにした。

生田目の病室に近づくにつれ中から声が聞こえてくる。だだ漏れだっつうの。
そっとドアに耳を寄せてみる、今すごいまぬけな状態だな、俺。
ぼんやりとそんなことを考えながら中の会話を聞いた。
生田目をテレビに落とそう計画、一言でいうとこんな感じ。
思わず大爆笑しそうになった。
今のところ賛成は二人、あとはどっちつかず。迷ってんなら落としちまえよ。
堂島さんのとこの彼は、声が聞こえないのでわからない。
生田目のううううとういううめき声がたまに聞こえる、いっちゃったのかな頭。
送検できなくなったらどうすんだよ

もうちょっと聞いていたいけど、ここでオレが入ったらつまらない。
熟す、っていうのは違う気がするけど、もう少しほっとこ。
病室に戻って、堂島さんの様子見て、それから生田目の病室へ行こう。
論議の時間は長い方がこじれるしね。
その前に煙草でも吸おうかなーと足音を立てずに生田目の病室から離れる。

廊下をひたひた歩きながら、あの子たちの会話を思い出す。
特捜なんとかとか言って正義面して救出劇を繰り広げるから、どんなもんかと思ってたけど
「おんなじでやんの」
うっかり口をついて出た言葉に納得する。おれとおんなじ。
結局、人間なんて突き詰めちゃえば俺みたいなのばっかりで、善人気取ったガキ共も、自分の都合でいらないものを消していく。
そういや勇者も平気で家捜しするっけ、と子供の頃に友達の家でやったゲームのことを思い出す。
胸ポケットから煙草を出しながら壁に寄りかかり手の中で煙草をもてあそんで、ひそかに笑う。

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