プロミネンス

空には厚い雲がかかっていて、ぐっと僕を圧迫しているように見えた。大きめの窓から身を乗り出して空を見上げる僕はこれから月と重なり合うであろう陽光を探していた。

「太陽見えないなー」
「用がないなら出て行ってください」

仕事の邪魔です。とディスプレイから目を離さずに言う女の後頭部に唾を吐きながら僕は椅子に座る彼女の後ろからディスプレイを覗き込んだ。数字の羅列。吐き気がする。

「真面目だよねえ、ほんと」
「邪魔をしないでください」

ぶうんぶうんと空調機が肌寒いほどの冷風を僕に浴びせる。彼女の物言いがさらに寒気を増長させた。背後に立たれても微動だにしない女の態度を崩したくなった僕は、馴れ馴れしく彼女の肩に手を掛けて、続けて猫なで声で話しかけた。

「頑張ってももう本庁には戻れないのにさ」
「・・・・・・」
「努力したって誰も認めてくれないのに、意味ないって」
「黙って下さい」
「ねえ―――」

耳元に名前を囁いてやると、はあ、と彼女の肩が上下して、くるりと体をこちらに向けた。彼女の冷たい目はまっすぐに僕の目を射抜く。いつ見ても気に入らない目だ。

「今日はいつも以上にお喋りですね」
「図星でしょ?」
「全部あなたのことでしょう?私には関係ありませんよ」
「・・・」
「図星みたいですね、用がないなら出て行ってください」

部屋から出て行くのを見届けるように彼女は僕を見つめる、早く出ていけという顔だ。くそ、胸の中がどんどん暗くなっていく、汚れていく、こんな女に劣等感を感じるなんて、僕は一体どうしんだ。むかつく女だ。この部屋にテレビがあればいいのに。あ、

「パソコンもテレビの代わりになるかな」
「何言ってっ・・・!」
首を掴んでディスプレイに生意気な彼女の体を押し付ける。椅子がぎしぎしと追加された僕の体重で悲鳴をあげた。いくら押し込んでも彼女はディスプレイには落ちない。やはり無理なのだろうか、どこかで安堵する自分がいる。

「離して下さい」

抵抗することなく毅然と僕を睨む彼女の目には、生理的な涙すら浮かんでおらず、僕はさらに惨めな気持ちになる。緩んだ感情の糸が、そのまま体ごと彼女に倒れる。

「なんだよ」
「・・・ちょっと」

首を掴んでいた僕の手は子供のように彼女に巻きついて、体はすがりついている。はたから見ればまるで恋人同士のようだ。

「いい加減にしてください」

彼女の少しあわてた声に、僕は本来の目的が達成したのだと彼女の胸でほくそ笑んだ。鼻が妙につんとする、ちくしょう泣きそうだ。顔があげられない。くそったれ。

「足立さん」

何にも見えなくなればいい。あの雲を切り裂いて、重なった月と太陽がこの部屋を闇に落とし込んでしまえばいい。そうしたらこの女の、生暖かい胸を突き飛ばして部屋から出て行くのに

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