ダイアモンドリング

「よーすけ」

小さな手が、俺の髪の毛を掴んで離さない。無邪気を装っているが俺はそれが彼女の残忍な気まぐれから起こる衝動だともうずいぶん前から気がついている。床に転がった制服が、俺と彼女の関係をひどく罪深くしていた。

「くすぐったいよう」

くすくすとあどけない笑みが耳に届き、俺は彼女の柔らかい胸に頭を垂れて、未成熟な体に欲望を注ぐために彼女の胸を愛撫する。そのたびに彼女はふるふるとか細く震えながら未知の体験に喜ぶ。

「ようすけぇ」

体をくねらせる彼女は、幼さを糧に繁茂する艶やかさに溢れていた。時折女のような嬌声をあげて笑う彼女は、心だけが幼いようだ。兄譲りの滑らかな髪が頬に張り付き、さらなる欲情を感じさせる。

「はあ、う…お兄ちゃん…お兄ちゃん…」

耐えきれずこぼす名前は俺のものではない。彼女は助けを求めている、新たな快楽に身を落としつづけるという背徳に。兄以外の男に体を与えるという行為に。

ああ、いつからだろう。俺があいつを愛しく思うようになったのは、けれどこんな感情を抱いていると知られたらきっと気持ち悪がられる。
彼女は俺のそんな満たされない欲望に耳打ちをした。

“お兄ちゃんのかわりになってあげる”

今でもあのときのことは忘れない。誘うように笑う彼女に彼女の兄が重なるのを俺は見た。くっきりと重なる彼女と彼女の兄が、薄い燐光を放ちながら笑った。 俺は醜い獣のように彼女に襲いかかり、あいつの名前を呼んで抱いた。ああ。許しなどとうに忘れた。

「やめないで、考えさせないで、お願い」

彼女もまた俺に兄を重ねている、彼女の中の俺もまた――満たされない欲望を輝かせているのだろうか。いつまでも叶えられることない想いをくすぶらせているのだろう。

「もっと、なにも見えなくなるくらいに」

俺は彼女の体を抱きしめた。彼女も俺の背中に腕を回す、体の中心が、まるで核のように熱い。こうやって重なり合い続けても、いつか消えてなくなる日が来ないことを俺たちはいつになったら気づくんだろう。

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