追憶のなかのつがい

ちいさな胸だと思った。実際小さかった。言うと怒るので言わなかった。
産毛をなでるようにゆっくりと触れると、睫毛がぴくりぴくりと動いた。
怖いならやめようか
僕がそういうと彼女は女になる前の未発達な、丸みの帯びかけた肩をすくませた

「こわくありません」

強気だなあとつぶやきながら、僕もこんなだったかな中学のとき、とさらにつぶやいた

「足立さんの中学の頃ってどんなんだったんですか?」

勉強とか、塾とか、そんなかんじと言いつつ、てのひらで彼女の震える心臓をすくい上げるように慎重になでる。彼女自身のぬくもりでなのか、小さく開けた窓から入る湿った風のせいなのか、彼女の肌はしっとりとしていて僕の手に吸い付いた。

「う、」

眉を寄せて、不快感か快感がまぜこぜで彼女を揺らしているのだろう
僕もそれにあわせて彼女の胸や腹や首筋などをなでたり触れたりくちづけしたり、ゆっくりとした
うっとりした呼吸を吐いて、彼女は震えた。その様子がむかし小学校の飼育小屋にいたうさぎのようで僕は今日初めて彼女をかわいいと思った。
それから一分が一時間に感じるような、またその逆であるような感覚で、僕らは淫行を成立してしまった。

彼女ののセーラー服と僕のスーツが絡まってるのを見て彼女は笑った。

「さっきまでの私たちですね」

確かに。今度は僕が笑った。
罪悪感はかけらもなく、あるはずもなく僕らはだらだらと夜をやり過ごした。
朝が来るまで子どものようにじゃれついたり、恋人同士のようにじゃれあったりした。




朝になった。
彼女は家に帰らなくちゃいけない。ほんとうはもっと早く帰って、引越しの準備をしなければいけなかったけど、彼女は両親に一生に一度の大嘘をついて僕のところへやってきた。

「足立さん」
「なんだい」

暗闇の中で見続けた彼女の姿はどこにもなかった。透明な朝の空気を身にまとった彼女は昨日までの彼女ではなかった。僕はそれを素直に喜ぶことが出来る。

「リボンをあげますね」
「いらないよ」

彼女の手は僕の手をしっかと握り、もう片方の手でリボンをそっと僕の手の中へ滑らせた。君の香りがするリボン。僕は昨日そのリボンをほどいて、君を抱きしめた。遠い過去のようだ。

「寂しくなっても泣かないでね」
「泣かないよ、寂しくもないよ」

もう過去だもの。君はもういないもの。いいから早く行ってくれないかな。君の残り香で泣いてしまいそうだ。

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