call me again

彼女は何かを呟いて、また一人兵を殺した。首を裂き、頭を貫き、形もとどめぬほど刺しつくされたそれは血など一滴すら残っていないようだった。しかし彼女にとってこんな兵一人など些末なもの、彼女の求める血は、復讐の相手は、

「レムオン」

唱えるように、彼女は呟いた。血でぬめる手を拭い前を向いた。彼女は狂っている。竜を殺し、神を殺し、こうしていもしない人間を求めて彷徨う。彼女こそ本当の亡霊。彼女の求める相手はもういない。わがままな王女様に殺されてしまった。

「…レムオン」

息を殺した兵士が一人、彼女の背後に近寄る。殺した息が、彼女の背中からあふれる殺気にこぼれてしまう。息を飲み込んだ時にはもう、彼の腹には剣が刺さっている。ずぶり。内臓をえぐられる感触に兵士は絶叫する。それは愛する者の名前であったか否か、彼女の耳には届かない。

彼女は夕日を見る。途方もない朱に、彼女は飲まれたいと願う。血色の世界の向こうに、望んだものがないとしても。

「レム、オン」

咎人は彼女一人、無限の魂さえなければなにも始まらなかったかもしれないのに。彼女は死ねない。なのに死は彼女の背中を追いかける。始まったのに終わらない。彼女の中で永遠に、あの日の義兄がよみがえる。

血反吐を吐いて歩みゆく黄昏、あなたは待ってくれません

20090507

まぶしくて目を開けるとはっちゃんがいた。僕の頭は昼下がりのまどろみと変わらず治らない頭痛がゆっくりと体をめぐっているのを感じていて、まばたきをしてやっと、はっちゃんが僕と同じ布団の中にいることに気がついた。僕は恥ずかしくて飛び起きてしまいそうになったけど、はっちゃんはきっと昨日も遺跡にいって、あんまり寝ていないのだと思うから、身じろぎするのをやめた。じっとしていると、はっちゃんが目を覚ましていないことに気がつく。はっちゃんは音楽室で居眠りをしていても、僕が近づくと目を覚ます。それは警戒心からくるもので、それははっちゃんの仕事には必ず必要なものだから、仕方がないと思う。

(・・・はっちゃん)

はっちゃんはよくさびしそうな顔をする。手に入らないものを見ている子供のようでいて、どこか大人びていて、遠くを見つめている。僕はそのたびに、少しだけ優越感を覚える。はっちゃんは僕を救ってくれて、僕以外の人もたくさん救っているけど、誰もはっちゃん自身を救ってあげることはできないんだ。僕はそれに満足する。なぜならはっちゃんはそういうとき、自分が救ってあげた人によりかかるから、僕に、少しだけもたれかかって、何かを紛らわすから。これはきっと皆守くんにはできない。皆守くんは根っこのところではっちゃんを拒絶していて、僕はそれを見て見ぬふりをする。

(僕の血も赤いのかな)

黒い砂がまだ、自分の血管の中を流れているような気がした。僕ははっちゃんの土と埃の匂いのする髪の毛の中に顔をうずめたくなる。はっちゃんは静かな寝息を立てていて、僕ははっちゃんのすぐそばにいる。はっちゃんの首筋に、鍵盤を叩くように爪を押し当てたくなる。そこから流れる血は、赤いのか、川のように流れるのか、僕は少しだけ気になって、はっちゃんに少しだけ身を寄せる。はっちゃんは目を覚まさない。それにすこしほっとして、僕はまぶたを閉じた。

20100201

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