call me again

彼女は何かを呟いて、また一人兵を殺した。首を裂き、頭を貫き、形もとどめぬほど刺しつくされたそれは血など一滴すら残っていないようだった。しかし彼女にとってこんな兵一人など些末なもの、彼女の求める血は、復讐の相手は、

「レムオン」

唱えるように、彼女は呟いた。血でぬめる手を拭い前を向いた。彼女は狂っている。竜を殺し、神を殺し、こうしていもしない人間を求めて彷徨う。彼女こそ本当の亡霊。彼女の求める相手はもういない。わがままな王女様に殺されてしまった。

「…レムオン」

息を殺した兵士が一人、彼女の背後に近寄る。殺した息が、彼女の背中からあふれる殺気にこぼれてしまう。息を飲み込んだ時にはもう、彼の腹には剣が刺さっている。ずぶり。内臓をえぐられる感触に兵士は絶叫する。それは愛する者の名前であったか否か、彼女の耳には届かない。

彼女は夕日を見る。途方もない朱に、彼女は飲まれたいと願う。血色の世界の向こうに、望んだものがないとしても。

「レム、オン」

咎人は彼女一人、無限の魂さえなければなにも始まらなかったかもしれないのに。彼女は死ねない。なのに死は彼女の背中を追いかける。始まったのに終わらない。彼女の中で永遠に、あの日の義兄がよみがえる。

血反吐を吐いて歩みゆく黄昏、あなたは待ってくれません

20090507

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