悪魔の代弁者に微笑みを

剣が首先に当たる、こんな状況は冒険者になってから数え切れないほどあった、恐怖なんて感じないと思っていたけど相手がそれなりの使い手だとそうも行かない
ベルゼーヴァ・ベルライン、心の中で憎憎しげにつぶやく。 こいつはなんであたしをこんな風に扱うのだろう。噂話を栄養分にしていきる貴族のお嬢様みたいに扱って欲しいわけじゃない。それは吐き気がするし、ここに来る前に充分レムオンにやられたことだ。ちくしょう、なにが貴族のたしなみだ。
思考をかき混ぜていると剣がかすかに動く、触れているだけだった刃が焦らすように揺れる。

「無限のソウルよ、ずいぶんと余裕だな」
「余裕っていうか悩んでるのよ」
「お聞かせ願おうか」
「あんたのこの仕打ちについて」

夕闇がベルゼーヴァの頬を撫でるのを眺めながらつぶやく、瞳は私の名前をさえない名前だといったときのように冷淡で、馬鹿にしているような目だ。その瞳の奥にこの部屋にまとう夕暮れの光がすこしも入っていないことを感じて、すこしだけ嬉しくなる。
本人はあたしの言葉を頭の中で逡巡するように目を伏せる。

「仕打ちとは?これは歓迎だ」
「ディンガルでは客人の首に剣をあてるのね、知らなかったわ」
「では覚えていてもらおうか、ロストールの副官」

ベルゼーヴァは剣を降ろして鞘に収める。その動きには隙もなく、少しでも私が動けば剣が脳を貫くだろう。不気味だ。
やはり知っていたかと思いながらベルゼーヴァを見つめて言った。

「心が狭いのね、そんなことで殺そうとするなんて」
「君はこの程度で死を感じるのか?まだまだのようだな無限のソウルよ」

あれだけの殺気を放っておいて何を言っているのだろう、もうすこしあたしが幼かったら泣いて命乞いをするだろう、その図を頭に思い浮かべて気分が悪くなる。ベルゼーヴァ、お前に命乞いするくらいなら自分から死んでやる。
帰ろうと振り返る、逃げるみたいで何だか嫌だけどここにいるとおかしくなりそうだった。

「帰るのか、客人」
「また来るわ、次はあんたのそのきれいな首に剣を押し付けてやる」
「楽しみにしていよう」

扉を閉める直前ベルゼーヴァをちらりとみる
その目は変わらず冷たいままだった。

20090423

まぶしくて目を開けるとはっちゃんがいた。僕の頭は昼下がりのまどろみと変わらず治らない頭痛がゆっくりと体をめぐっているのを感じていて、まばたきをしてやっと、はっちゃんが僕と同じ布団の中にいることに気がついた。僕は恥ずかしくて飛び起きてしまいそうになったけど、はっちゃんはきっと昨日も遺跡にいって、あんまり寝ていないのだと思うから、身じろぎするのをやめた。じっとしていると、はっちゃんが目を覚ましていないことに気がつく。はっちゃんは音楽室で居眠りをしていても、僕が近づくと目を覚ます。それは警戒心からくるもので、それははっちゃんの仕事には必ず必要なものだから、仕方がないと思う。

(・・・はっちゃん)

はっちゃんはよくさびしそうな顔をする。手に入らないものを見ている子供のようでいて、どこか大人びていて、遠くを見つめている。僕はそのたびに、少しだけ優越感を覚える。はっちゃんは僕を救ってくれて、僕以外の人もたくさん救っているけど、誰もはっちゃん自身を救ってあげることはできないんだ。僕はそれに満足する。なぜならはっちゃんはそういうとき、自分が救ってあげた人によりかかるから、僕に、少しだけもたれかかって、何かを紛らわすから。これはきっと皆守くんにはできない。皆守くんは根っこのところではっちゃんを拒絶していて、僕はそれを見て見ぬふりをする。

(僕の血も赤いのかな)

黒い砂がまだ、自分の血管の中を流れているような気がした。僕ははっちゃんの土と埃の匂いのする髪の毛の中に顔をうずめたくなる。はっちゃんは静かな寝息を立てていて、僕ははっちゃんのすぐそばにいる。はっちゃんの首筋に、鍵盤を叩くように爪を押し当てたくなる。そこから流れる血は、赤いのか、川のように流れるのか、僕は少しだけ気になって、はっちゃんに少しだけ身を寄せる。はっちゃんは目を覚まさない。それにすこしほっとして、僕はまぶたを閉じた。

20100201

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