悪魔の代弁者に微笑みを

剣が首先に当たる、こんな状況は冒険者になってから数え切れないほどあった、恐怖なんて感じないと思っていたけど相手がそれなりの使い手だとそうも行かない
ベルゼーヴァ・ベルライン、心の中で憎憎しげにつぶやく。 こいつはなんであたしをこんな風に扱うのだろう。噂話を栄養分にしていきる貴族のお嬢様みたいに扱って欲しいわけじゃない。それは吐き気がするし、ここに来る前に充分レムオンにやられたことだ。ちくしょう、なにが貴族のたしなみだ。
思考をかき混ぜていると剣がかすかに動く、触れているだけだった刃が焦らすように揺れる。

「無限のソウルよ、ずいぶんと余裕だな」
「余裕っていうか悩んでるのよ」
「お聞かせ願おうか」
「あんたのこの仕打ちについて」

夕闇がベルゼーヴァの頬を撫でるのを眺めながらつぶやく、瞳は私の名前をさえない名前だといったときのように冷淡で、馬鹿にしているような目だ。その瞳の奥にこの部屋にまとう夕暮れの光がすこしも入っていないことを感じて、すこしだけ嬉しくなる。
本人はあたしの言葉を頭の中で逡巡するように目を伏せる。

「仕打ちとは?これは歓迎だ」
「ディンガルでは客人の首に剣をあてるのね、知らなかったわ」
「では覚えていてもらおうか、ロストールの副官」

ベルゼーヴァは剣を降ろして鞘に収める。その動きには隙もなく、少しでも私が動けば剣が脳を貫くだろう。不気味だ。
やはり知っていたかと思いながらベルゼーヴァを見つめて言った。

「心が狭いのね、そんなことで殺そうとするなんて」
「君はこの程度で死を感じるのか?まだまだのようだな無限のソウルよ」

あれだけの殺気を放っておいて何を言っているのだろう、もうすこしあたしが幼かったら泣いて命乞いをするだろう、その図を頭に思い浮かべて気分が悪くなる。ベルゼーヴァ、お前に命乞いするくらいなら自分から死んでやる。
帰ろうと振り返る、逃げるみたいで何だか嫌だけどここにいるとおかしくなりそうだった。

「帰るのか、客人」
「また来るわ、次はあんたのそのきれいな首に剣を押し付けてやる」
「楽しみにしていよう」

扉を閉める直前ベルゼーヴァをちらりとみる
その目は変わらず冷たいままだった。

20090423

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