すべてはやさしいこもりうた

駅のホームに私は立っている。乗車口のラインに私はまるで途方にくれたように立っている。胸の中に妙な達成感と、寂寞とした感情があるが、それが何かはわからない。私は多分電車を待っているのだ。
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人は私だけのようで、線路の前に並ぶホームにも人はいない。一定に流されるアナウンスも無い。気温も空気も私の体にぴったり合っているかのように動かず、自分の呼吸でやっと少し揺らぐ。それが少し寂しいと思い、同時に安堵する。
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ふいに音が聞こえた。一定のリズムで、私の耳に近づいて来ている。足元に暖かな空気が流れて来る、穏やかな日差しを受けているような感覚。どこかで感じた温もりだった。
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音は少しずつ近づいているが、来る気配はない。変わりに、ふわりとした眠気を私の体は吸い込んだ。きっと漂ってきたぬくもりが私を眠りに誘うのだ。まばたきをして、時計を見る。もう、そろそろだ。電車が来たら、日当たりのいい席に座って、ゆっくり眠ろう。でも、寄りかかるにしても窓だと硬い、こういうときは、
「おい」
「…誰かが肩を貸してくれたら最高だなって思ってたんですよ」
「ちょうど良かったな」
眠い目をこすって真横に立っている先輩を見上げると先輩はに、と子どもみたいに笑った。
「ほら、来たぞ」
先輩が指差す方へ目を向けると、線路の向こうに電車が見えた。一定のリズムで、ゆっくりと。
私はあくびを噛み殺した。


20100201

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