額の上なら友情のキス

トッズ/友情ED/死亡ネタ
※葬儀捏造注意


祭壇に王の体は横たわっている。清められた体は美しく、白い布に巻かれた肌を、神殿に差し込む光が照らしている。一人の神官が歩み出て、組まれた腕の上に花冠をのせた。
色とりどりの花々は、王の肌から失われた色を補おうとその色彩を広げたが、王の肌に生気が戻ることはない。額にある印すら、輝きは失われているようだ。
六代目レハト王陛下は死んだのだ。

病だった。城にいたどんな医士すらも王の病を治せなかった。神官がどんなに神を祈りに捧げても一向によくはならなかった。死が眼前に迫っている以外は特に痛みはなかったことがせめてもの救いかもしれない。

死の苦しみから解放された王の体に、参列者たちは花をのせた。悲しみ、喜び、恨み、苦しみ、花は鮮やかに王を飾っていく。途切れることなく献花は続く。なだらかな白い布は、一面の花畑のように生気に溢れ、香りが祭壇を包む。そして、最後のひとりになった。

それは男だった。薄汚い外套をまとい、すすけた布を頭に巻いた緑の目をした男だった。あれは王の商人ではないか、という声が囁かれる。
男は手に持っていた花を、王の組まれた手の中に差し入れた。花は王の胸に映え、燦々と生きている。男は神官に見えないようわずかに指に触れ、その冷たさを感じた。

男の眦が垂れる。泣いているようでも、笑っているようでもあった。口元に生えたひげが下がり、わずかに開いた。

「御髪が、乱れております」

神官がまばたきをしてまさかと呟いた。王を見ると確かに、ほんのすこしだが乱れていた。花を落としたときにそうなったのかもしれないと感じた。

「どうか私めに王の御髪を整えさせてくださいませんか」

言うやいなや、男は懐から櫛を出す。装飾の少ない、しかし見事な櫛であった。それはできないと神官は告げようと口を開き、やめた。
男の目から涙が零れたからだ。それはすでに涙の跡であった。男は涙を拭いもせず頭を下げた。自分が涙を流していることに気づいていないようであった。
神官はその様子に神意に触れたように頷いた。

男はもう一度頭を下げ、王の髪に櫛を入れた。参列者たちはそれをまるで儀式のように見入り、息を呑む。男は丁寧に髪を梳き、乱れを直す。そして確認するように顔を王の顔に近づけた。

月の光のように淡い印に、男はそっと唇を落とした。


20100412

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