召し上がれ

王の仕事は忙しい。毎朝臣下達が持ち込む仕事をみるたびに、リリアノはこれをどう片付けていたのか考えるくらいだ。しかし考えてる暇があるなら、といわんばかりに、机上に積み重なっていく書状に私の手は休むことすらままならない。ひいひい言いながら片付けてなんとか勢いがついてきた所で、彼女がやってきた。
「レハト様、よろしいかしら」
そう言ってユリリエは私の隣にある彼女専用の椅子に腰掛け、目の前にある書状をどかして盆を置いた。布がかけられているため何なのかは分からない、不思議そうな私にユリリエは笑顔を浮かべながら手を伸ばし、布を取り去った。
ケーキだった。白いクリームがまんべんなくかけられ、さらにふんだんに使われた果実の一粒一粒がつやつやと輝いている。
「私が作りましたのよ」
えっ、と私は驚いて、思わずユリリエを見てしまう。ユリリエはそんな私の反応もお見通しといわんばかりに艶やかに微笑んだ。
「不思議ですか?そうでしょうね。今までの私なら、しなかった事でしょう」
目を丸くした私をいたずらっぽくみやり、ユリリエは盆からナイフを取り、ケーキを切り分けはじめた。果実を潰さないようにゆっくりと下ろされるナイフ。ユリリエは袖にケーキがつかないように慎重に切っている。
「私は今まで、与えられてばかりでした。彼らは皆、私に愛されようとたくさんのことをしてくれました。けれど、私はそんな彼らの愛を受け取るだけで、返したことがなかったのかもしれません」
するりとケーキから滑り出たナイフは、切られたケーキの下に潜り、ケーキを浮かせた。ユリリエは片手で盆に置かれた皿を取り、ケーキをのせる。私はぼんやりとユリリエを見つめた。
「愛は惜しみなく与えあうもの。私は、愛のうわべだけで満足していたのかもしれません。ですから、」
いつのまにかユリリエの手に握られていたフォークが、ケーキをすくいとる。一口大のケーキに、果実はついてなかった。ユリリエは手をのばして果実をつまみ、フォークにのせた。
「レハト様に与えたかったのです、私の愛を」
口元に寄せられたフォークがきらりと輝く、
「さあ、召し上がれ」


20100331

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